コンサル事例 収益物件の再生編

「学生向けアパート購入後に大学が移転、不動産会社からは大幅な賃料の減額提案。」

 

不動産投資で収益物件を購入する際に皆さんは何を重視されますか?利回りや築年数、構造や建物の状況など、さまざまな要素を検討されると思いますが、あなたは何を重視しますか?

 

今回のお客様は、とある東京圏で「立地」や「周辺環境」がとても気に入ってアパートを購入されました。「いくつかの大学キャンパスがそばにある。」という好立地で、しばらくの間は毎年安定した収入を確保できていました。

ところが、ある年を境に大学キャンパスが移転。

まったく予想していなかった出来事により、家賃減額の判断をせまられた賃貸不動産オーナーの収益改善を不動産コンサルタントとしてお受けした時のお話です。

あなたは、家賃減額がせまられた時、どうしますか?

 

 

恵まれた環境が決め手で購入した、思い入れのある物件

 

今回の不動産オーナーである猪俣さん(仮名)は現役で建築業界の第一線で働き、不動産にもある程度精通している方。都心にほど近く、駅からも徒歩10分以内ながら自然に囲まれた、木造2階建て10室のワンルームアパート。周辺環境がとても気に入って 築30年の状態で、中古で購入しました。

 

猪俣さん

「まず、この物件はいける!と購入に踏み切ったのは、近くに大学のキャンパスが複数あり、周辺の入居状況からみても安定が見込めるとても好立地な環境でした。木造ではありましたが、私が建築関係の仕事をしていることもあり、プロの目から見ても築年数の割にはまったく構造上に問題無い状態というのも購入に踏み切った要因です。」

 

猪俣さん

「そうした以外にも、個人的に気に入ったのはまわりの自然です。空気も綺麗で、自然の景観が大好きな私にとって何か運命的なものを感じていました。」

とても強く語る猪俣さんにとって、購入された物件は思い入れがある様子。

 

予想外の大学移転。賃料は下げたくない!でも地域の相場は下がっているし・・・

まず、現在の営業状況を詳しく伺いました。専任で任せていた大手不動産会社より「2割減の家賃設定をしないと厳しい」と言われているとのことでした。周辺のライバル物件の状況を調査してみると、エリア全体に空室がかなり目立っていました。

 

大学の移転から、ワンルーム需要が急激に減ってしまい、供給過剰に陥っているこのエリアでは、先の不動産会社の提案のように、賃料の大幅な減額など思い切った手を打たなければならないのは、不動産コンサルタントとして見なくても明白な状況でした。

 

「聞いた内容と資料からではありますが…部屋が多く余っているこの状況で、簡単に空室を埋める方法の一つとしては、賃料の減額がある事は間違いありません。」

私は、不動産コンサルタントとしてお会いした最初の無料相談の中で、率直にお話をしました。

 

猪俣さん

「賃料を下げなければ部屋が決まらないなんて話は聞きたくないです。不動産会社は、なぜ物件の個性を評価しないのでしょうか?

例えば、同じワンルームの物件でも国道沿いの物件もあれば、この物件のように環境豊かな物件もあります。

同じエリアの物件が埋まっていないからといって、家賃を下げないと入居率が改善できないと簡単に言われても、どうしても納得いかないのです。」

 

こうした猪俣さんの思いを受けて、コンサルティングを開始しました。

 

今回の依頼

・周辺環境の変化で下がってしまった入居率の改善

・全体収入をできる限り減らさず、できれば維持できる経営状態をつくる

 

物件の良さを再確認してみる

最初に不動産コンサルタントとして行うべきは、「不動産物件の良さの確認」です。

言い換えれば、その物件のもつ”強み”を確認することということになります。物件のもつ強みは、住む家をさがす人にとっては他の物件と違う魅力。要するに差別化に繋がり、それがニーズに直結すればそのまま入居率や賃料に反映される重要な要素です。

 

まず猪俣さんが仰っていた、この物件の良さは以下の通りです。

1.周辺に大学キャンパスがいくつかある。

2.木造ではあるが、構造上大きな劣化はなく良い状態である。

3.東京近郊でありながら、自然に囲まれた環境

 

ですが、1の大学キャンパスはすでに移転しているために、良さから消えます。

ですから実際には2と3が猪俣さんからお聞きした強みということになります。

 

1.周辺に大学キャンパスがいくつかある。

2.木造ではあるが、構造上大きな劣化はなく良い状態である。

3.自然に囲まれた環境

 

3つの強みの中で、残念ながら一番の競争ポイントが消えてしまっている状況です。

さらに、実際に現地を見てみると意外な事実が判明します。

 

良いと思っていた所が短所になっていた・・・

 

面談を終えた後日。実際に物件を現地調査すると、昔の物件であるがために、設計上の問題が出てきました。

それは洗濯機置場は外廊下。すぐ裏手に川が流れていることもあり、廊下の共用灯には毎晩虫が群がり、汚れていました。

入居者の方にお話を伺うと、環境の良さという部分は評価されておらず、むしろこの環境に困っていた事が判明しました。

また、最近の物件と比較しても、物件の古さは目立ちました。3点ユニットバスやキッチンが電熱コンロである事。また内装や建物自体もデザインは古く、入居者ターゲットである『大学生を中心とした若年層向け物件』としては 「競争力に乏しい状況。」というのが現地調査の結果でした。

 

1.周辺に大学キャンパスがいくつかある。

2.木造ではあるが、構造上大きな劣化はなく良い状態である。

3.自然に囲まれた環境

 

結果として、自然に囲まれている状況や、古い設計であることが入居者から見れば、嫌がられるポイント。要するに”弱み”になっていたのです。

 

こうした、オーナーの強い思い入れが入居者から見ると、弱点であったり何も思われていないというのは良くある話しです。ですから、不動産経営は「入居者の現実を見る」ということが、とても重要になってきます。

 

しかし、調査をすすめるうちに猪俣さんも知らなかったことが判明していきます。

 

物件の裏手に清流が流れているのですが、部屋から聞く川のせせらぎがとても心地良いこと。なんと、時期になると部屋からホタルが見えるのです。

また、周辺環境の調査をすすめると、東京圏でありながら、登山、ハイキング、サイクリングロードと魅力的なスポットが多く集まっていました。

そこに住んでいる人からみれば当たり前の場所が、他の地域の人からみれば十分な魅力につながっている環境でした。

整理すると、新たに確認された”強み”は以下です。

1.部屋から聞こえるせせらぎ、季節によってホタルが見える

2.東京圏なのに登山、ハイキング、サイクリングが楽しめる豊富なスポットが点在

 

しかし残念ながら、現在主流のインターネット賃貸検索サイトからだと、こうした強みはデータ上には出てきません。こういった所が 今回の不動産業者とオーナーの溝が生まれてしまった根っこの部分だったかもしれません。

 

コンセプトを決定。学生向けアパートから別荘・セカンドハウスに転換!?

 

データ上には出てこない”強み”をどう、データ上に出てくる状態にするか?

が、今回の案件において最大のポイントです。

まず、大学キャンパスからほど近い便利な学生向けアパートという以前のコンセプトは、今では機能しなくなっていますので、新しく強みを活かしたコンセプトを作る必要があります。

 

まずは、コンセプトを作る上でターゲットを再認識してみます。

 

この物件の強みは

 

・部屋から聞こえるせせらぎ、季節によってホタルが見える

・東京圏なのに登山、ハイキング、サイクリングが楽しめる豊富なスポットが点在

 

これを日常的に喜んでくれるのは、どんな人達でしょうか?

 

またもう一つここに関連した強みがあると、私は思っていました。

 

東京都心に出るのに1時間ちょっとかかるとは言え、『電車一本で行ける という交通の便』です。ですから、ここからの通勤は、この環境を好む人であれば十分に現実的だと考えていました。

 

そこから導き出したターゲットの一つは20代〜40代で都心に住むサラリーマンで、普段から自然が好きで週末はアウトドアを楽しむ層 と設定しました。

 

このターゲットからコンセプトを作り「学生向けアパート」から、今の強みを活かした「別荘のように環境を楽しむ人」と転換をすることになりました。

 

こうした大胆なターゲットとコンセプトの変更が可能となったのは、”猪俣さんが物件の変化に対して積極的な姿勢を見せていただけた”というのはとても大きな要因です。

 

バランス良く予算を決める

 

猪俣さんが物件の変化に対して積極的・・・と言いつつもそこに無尽蔵に費用をかけて不動産経営の足を引っ張ってしまっては本末転倒です。

 

ですから、入居率改善や収益力アップの観点から、予算設定はとてもとても重要な部分です。

 

予算はこうした考え方から設定しました。

 

・本来、2割近く賃料を下げなければ成約しない状況であること

・猪俣さんが希望する収益は現状の賃料維持あること

 

そうした状況から、一般的な契約期間である2年間だけ賃料を2割削ったと思って、その差額部分をリフォーム予算とする事を提案しました。

 

そのままでは、家賃を下げざるを得ない結論になることも頭ではわかっていた猪俣さんは神妙な面持ちで、この提案を承諾しました。

 

ここでのポイントは

 

リフォーム投資といえば体よく聞こえますが、改善にかけるお金は誤魔化しようの無い経費で、オーナーにとってとても大事なお金です。そして、こうした対策というのは清掃や点検としった予定された経費ではなく、ある意味で予想外の出費を判断することとも言えます。

 

ですから、

 

”いかに無理なく、でも少しだけ頑張って、できる限り大きな、しかし現実的なリターンを設定する”ということになります。

 

コンセプトを明確に見える化して、共感した人々で満室に。

 

では、この猪俣さんの思い入れの深いアパートが、その後どうなったか?

今回設定した予算は、フルリフォームをするには不十分な額です。ですから、お金のかかる工事は必要最小限に抑えて、内装とコーディネートした家具や小物を加えることを計画しました。。

 

リフォーム費用として見れば不足する予算も、家具にかけるのであれば十分な予算になり得ます。こうした発想の転換をすることで充分な予算として使うことができます。

 

また、予算を必要とするような、3点ユニットバスや電熱コンロキッチンについては、あえて変えないこととしました。

 

ここでのポイントは

 

引く所は引いて、その分かけられる部分にかけていくメリハリ

 

今回の改善ポイントとなる家具は “自然との共存”をテーマにしたメーカーに協力をいただきつつ、この物件の強みが室内でわかるように

 

・サイクリストが楽しめる部屋

・せせらぎを聞きながら読書を楽しむ書斎

・ハンモックに揺られながら清流が見える部屋

・家を楽しむカフェ風の部屋

 

といった感じに、部屋ごとに ”ターゲットに合わせた、データでは見えにくい強みを、部屋で見せる” というイノベーションを行いました。不動産検索サイトを見るとわかりますが、窓からの景観や周辺環境は、短いコメントで書かれるのみですが室内写真はかならず重要なポイントとして扱われます。

室内に対して本来見えにくいコンセプトを反映させることは、強みを100%活かすためのコツです。

アウトドアブームにも後押しされ、じわじわと周知が広がり、結果として満室化の達成だけでなく、賃料も元の不動産会社の査定よりも2割から3割高く成約となりました。

 

また、ターゲットが学生から社会人にシフトしたことにより、入居期間の入れ替わりが長期化した事も、収益力を向上させる結果となり喜んで頂けました。

 

猪俣さん

 

「私が購入するときに思っていたこのアパートの良さが、まさに形になった感じです。こうした環境のような価値は不動産流通では評価されにくいことはわかっていましたが、今回のように目に見える価値に表現してもらえたことが一番うれしかったです。まるで我が子が社会に認められたような気分です。」

 

年々変化する不動産物件の環境に対応するために、猪俣さんからは継続して今もなお相談を受けています。

なかなか相談相手をみつけられず、不安や孤独になりがちなオーナー様のパートナーとして、ともに不動産経営していくことは、不動産コンサルティングにおいて、私はとても大事な事だと考えています。

 

今回のポイント

 

・市場は変化します。変化した市場環境に対応していくのが不動産経営の肝です。

・自分の思っている強みは疑い、入居者の生活とリアルに向き合う。

・賃料の値下げはあくまで一つの手段。他にもやれる事は多くあります。

・予算をどう適正に設定し、どう使うかが対策の要です。

・ターゲットとコンセプトが明確でそこにニーズがあれば結果はついてきます

・検索サイトは一元的な価値しか検索できません。本来の良さをどう見える化するか?

 

 

“現代の不動産経営では、入居者に寄り添うことがおろそかになりがちですが、本来は要です。オーナーとともに入居者に寄り添える環境をつくることこそが、経営環境が厳しくなる不動産経営にとって必要不可欠な変化だと考えております。

 

もし、不動産経営でお困りになる事がありましたら、グラム株式会社(八王子市)へお気軽にご相談下さい。

あなただけではありません。不動産経営は誰もが不安や孤独に陥りがちです。入居者の方々の幸せと満足を構築しながら、安定した賃貸経営を私たちと一緒に築いていきましょう。