コンサル事例 空室対策編

「解体予定から存続へ計画変更、築30年超で8割空室の物件再生」

 

どんな賃貸物件も、築年数の経過とともに多少なりとも競争力は失われていってしまいます。

「どんな物件を買っておけば将来的に安心できますか?」

皆さんからよく聞かれる質問です。

今回ご紹介する事例は、法人が自社ビル用地として解体するつもりで購入したアパートを収益物件として再生したお話です。

築年数が経過した物件の再生事例が、皆さんのヒントになるかもしれません。

自社ビル用地として、建物は解体予定で築30年超のアパートを購入も断念

その地域で長く親しまれている法人の代表である草川さん(仮名)は生まれ育った土地に愛着をもっており、そのエリアで売りに出されていた中古アパートを、賃貸経営をされる目的ではなく、自社ビルの建築用地として購入されました。

ターミナル駅から徒歩10分以内の好立地で、ゆったりとした約200坪の敷地に築30年超の建物が二棟あり、全てワンルームで構成された賃貸物件でした。

 

草川さんのお人柄、また地域に親しまれる法人である事から、自社ビル建築の為に行うアパートの解体にあたり、立ち退きをかけるような無理はしませんでした。新規の募集はかけずに、2年程の時間をかけて入居者が減っていくのを待ちました。

しかし、2年が経過する中で状況に変化が生じてしまいました。残念ながら、建て替え計画を断念せざるを得なくなった事で、物件再生のコンサルティングを依頼いただきました。

 

「このアパートは自社ビル用地として購入したのですが、とある事情で建て替えの計画をあきらめなければならなくなりました。購入に際して、借り入れを伴う多額の投資をしてしまっています。しかし、賃貸経営をするつもりはなかったため、何の準備も計画もしていないですし、その知識も経験もないため、何とか収益を出せる状態にするのを手伝って欲しい。」

と率直にお話しいただきました。

解体計画から2年が経過して、8割が空室になってからの再スタート

こうして、収益物件の再生コンサルティングを開始。まずご依頼いただいた時点での物件の状況を確認しました。

 

賃貸物件としての営業状況、すなわち家賃収入を伴う入居状況は、将来的な建て替えを通知していたこともあり、8割程度空いてしまっておりました。

次に、大きな支出を伴う建物や設備の維持管理の状況の確認です。

購入目的が自社ビルの建築だったこともあり、この建物自体の老朽化はまったく気にせずに購入していた為、お世辞にもキレイとは言えない状態でした。

幸いなことに、2割程度の入居があった事から、日々の清掃の実施、受水槽や消防設備等の必要最低限の設備は維持管理されておりました。

収益物件の再生で気を付ける事

収益物件の再生に取り組むにあたり、私が一番気を付けている点は収入と支出のバランスが取れる再生計画にできるかどうかです。物件の満室化が最大の目的になってしまうと、埋まったという満足感はあるものの、収支のバランスが崩れた計画となってしまう場合があります。

オーナーと二人三脚でおこなう再生計画だからこそ、将来的な物件の維持管理が持続可能なものでなければなりません。

 

 

収入については、そのエリアの相場を知ることができれば、満室想定での月収や年収を推測する事は可能です。

一方、築年数が経過した物件を再生させる支出についての見極めは肝心です。

入居を促す投資にばかり目を向けてしまい、予算を使い切った後に、劣化が著しい建物だと、屋根や外壁からの急な漏水など、多額の支出が発生してしまう可能性があります。

 

家賃収入を得る権利には、最低限の建物や設備の維持管理の責任が伴う事が見落とされがちなのです。

足場をかけた外壁塗装や屋上防水は、物件規模によっては数百万円から数千万円に及ぶこともあり、臨時に出費する事が不可能な場合もあり得ます。満室になっても、想定外の雨漏りが発生するような事態はあってはならないです。

 

 

 

実現可能な建物修繕計画

 

早速、草川さんの物件を建築の専門家と共に建物劣化の診断を行いました。

結果、幸いなことに塗装面は傷んでいるものの、屋根や外壁に目立った破損はなく、漏水も発生していない様子から緊急的な外壁や防水工事は必要ない状態でした。

 

状況の報告をしながら、草川さんの希望を伺いました。

「物件の購入以降、立て替えの為に新規入居をとめていたので、赤字経営が2年間続いています。難しいかもしれないが、必要最小限の支出で満室化し、収入が確保できないと先の事は考えられません。」

 

私自身の感覚でも、多少老朽化はしているけれど、この物件は立地の良さを活かして賃料をコントロールすれば、入居の目途はたつと感じていました。

一方で、安定した賃貸経営を行う為には、老朽化している建物の放置もできません。

 

「それでは、賃料を調整しながら最小限の投資で入居を促進し、ある程度の収入を確保してから、建物の本格的な修繕や投資に取り組んで、賃貸経営の安定化に取り組んでいきましょう。」

方針が定まりました。

 

そこで、建物本体の修繕計画を立案しました。

費用がかさむ足場をかける外壁塗装は5年後程度とし、劣化が著しく腐食が進んでしまっている鉄部については、優先的に塗装をする事にしました。鉄部だけであれば脚立でも工事が可能で予算を抑える事ができるからです。

また、思い切って外壁塗装を先延ばしにすることで予算を作り、建物の正面の目立つ部分にだけ、化粧タイルを貼り付けました。

インターネットでの募集が主流となった昨今、建物の外観写真はとても大事なのですが、今回の工事は完全に写真映えを良くするための化粧工事です。物件のアイコンとして外観写真は欠かせません。このタイルと先ほどの必要最小限の鉄部の塗装の色を選ぶ事で、建物の雰囲気を大分改善する事が出来ます。

これで、必要最低限の建物の機能性の維持に加えて、営業的な「化粧」要素を加えた修繕計画ができました。

 

次いで、設備についてのチェックも行い、火災報知機に年数の経過に伴う不具合がありましたが、何とか利用の目途がたち、事なきを得ました。

受水槽やポンプについては、メンテナンスを入れてチェックを行い、衛生面や作動に問題はありませんでした。

 

 

 

老朽化した20室超の空室をどのように埋めていくか?

 

ここから、ようやく空室の対策についてのお話しです。

この物件は築30年が経過していることもあり、もともとは、ワンルームながら和室の物件でした。お風呂はバランス釜(手動で着火しなければならないタイプの古い給湯器)で、キッチンはお湯が出ずに、瞬間湯沸かし器を設置するタイプです。

 

立地以外は目に入らず、建物について気にせずに購入された草川さんにとって、とてもラッキーだったのは、築年数の割には、お風呂とトイレが区切られているバストイレ別であった事、また古い作りが幸いして、収納は一間の押し入れがあるなど、ゆとりのある設計となっており、リフォーム次第では、競争力を取り戻す可能性を多く持った物件でした。

 

 

空室は20室以上ありました。一つ一つの部屋を確認していくと、原状回復工事(借りる前の状態に戻す工事)が済んでいるお部屋もありました。前オーナーが創意工夫した跡があり、フローリング化しているお部屋、設備を更新している部屋もありました。お部屋の仕上がり具合はバラバラでした。

一方、草川さん取得後は、取り壊しが前提だったために、それ以降に退去した部屋については、引っ越したままの手つかずの状況で、半数以上がその状態でした。

 

 

 

千差万別な空室状況を詳細にリスト化

 

無駄なく効率的なリフォーム工事や募集の戦略を練るにあたり、お部屋の様々な状況を詳細にリスト化する事がとても有効です。

とくに築年数が経過している物件は、不具合の発生や入退去毎に修理や交換、リフォームを重ねていくために、部屋によって設備の状況だけでなく、リフォームの状況、色合い、建具など本当にバラバラなってしまいます。オーナーはもとより管理会社もその詳細は把握できておらず、実際に部屋をご覧になるお客様が、宝探しのようにすべての部屋を見ていく事がある程です。

詳細なリストを作ることにより、募集について、リフォームの必要度合い、賃料設定についてなど、様々な事柄を横断的にそして、戦略的に検討する事ができていきます。

 

 

 

物件供給のコントロール

 

それでは、詳細リストの内容を一つずつ検討していきます。

空室を埋めるためには、当たり前ですが、まず募集をしなければなりません。募集をする為には、入居ができる日をある程度特定しなければなりません。

「今月末には入居が可能な物件です」と広告するといった具合です。

このため、早急にリフォーム工事の段取りを立てて、募集を開始する必要があります。

 

ここで、募集方法について、また工事の内容についての戦略的な検討が必要になります。

例えば、なるべく早く、全部屋同時に募集した方が良い結果が得られるでしょうか?

状況によって、答えは変わってきます。

引越しシーズン、いわゆる繁忙期に、新築のように誰でも住みたい物件が適正な賃料で募集されていれば、次々に部屋が決まっていく事も十分にあり得ます。

しかし、繁忙期以外で、老朽化した物件のお部屋が山ほど募集されたらどうなるでしょうか?

よほど安い賃料で募集するなどの無理やりな方法でない限り、なかなか決まらない事が目に見えています。この物件は、全部屋が同じ間取だったので、なおさらです。

 

株式市場など、他の様々な市場と同じように、賃貸不動産の市場も需要と供給のバランスで成り立っています。需要が住みたい人の数、供給が空き物件の数です。

つまり、同じような部屋を一気に供給してしまう事は、自らの部屋の競争力を下げる事にもつながるのです。

 

一方で、工事の実施方法について考えます。

多くの業者さんに協力してもらい、費用を気にせず一気に工事を完成させる事も可能です。一日でも早く入居可能な状態にすることは、一日でも早く家賃収入を上げるチャンスを増やすことになるのです。

 

しかし、先ほど書いた通り、早く全部屋を募集する事=「供給」したからといって、引越ししたい人、部屋を探している人=「需要」が増えるわけではありません。

 

ある程度まとまった内容の工事を業者さんに依頼する事によって、業者さんもコストを下げた工事が可能になります。部屋ごとに時間差で工事をする事によって、人工代を減らす事が可能になるからです。例えば、塗装工事をする際に、一部屋1時間程度の工事だったとしても、三部屋実施して3時間かかったとしても人工代が3倍になるわけではありません。

 

 

 

募集条件や方法を決定、募集開始

 

この段になると、草川さんからは全面的にお任せいただくようになってきました。

「要素が多くて、何を優先するべきか判断がつきません。お任せするのがベストだと思います。」

草川さんは費用についての判断はご自身でしっかりされた上で、再生方法については信頼してくださり、お任せ下さったので、より一層気持ちが引き締まりました。

 

検討の結果、コストと募集のバランスを考えて、3期に分けて募集をする事に決めました。

まず、簡易清掃ですぐに募集できるお部屋、少々の手入れで募集できるお部屋、しっかりと工事が必要となるお部屋の3種類です。

 

また、工事にかかる時間で募集開始時期をわけるだけでなく、先ほどの需要と供給のバランスを考えた募集方法を取りました。それぞれの期ごとに古めの設備で安めの賃料で募集する部屋と中の設備は新しく少し高い賃料で募集する部屋、その中間位の部屋を作りました。

 

お部屋をインターネットで探したことのある方はピンとくると思いますが、お部屋を探す方の予算の設定は、主に5000円単位で検索される方が多いのです。そのため、それぞれの予算の幅で探されているお客様に対して、表示されるような賃料の設定方法をとりました。

例えば5万円以下のお部屋と5万円から5万5千円のお部屋といった具合です。わずかな差の家賃でも、インターネット閲覧数やご覧になる方は変化します。

 

実は、賃料の設定とお部屋の内装についても様々な工夫を凝らしたのですが、これについて、ここでお話しすると長くなりすぎてしまう為、次回にご紹介したいと思います。

 

 

前段で外装や設備についての予算がはっきりしているため「詳細リスト」に基づいたお部屋状況の横断的な分析を行い、総合的に草川さんがかける事のできるご予算と相談しながら、内装の仕上げ状況と、家賃設定を具体的に導き出す事ができました。

リフォームの見積が確定し、リフォーム完成予定も出てきました。そして、3段階に分ける段取りも組むことができました。さあ、募集を開始です。

 

 

工事開始、ほどなく入居申し込み!

 

計画さえ組むことができれば、あとは実行するのみです。

専門業者さんにバトンを託して完成を待ちました。工事を進める中で、床下の根太が腐食して追加の工事が発生した、など想定外の費用が発生するなど、少々のトラブルはありましたが、概ね順調でした。

計画に基づいた募集もうまく機能し、無事に入居申し込みが入りました。

一人目のお客様は、工事途中だったにも拘わらず、家賃の設定と出来上がりの期待感から入居を希望してくださりました。

再生コンサルティングを行っていて、一人目の入居申し込みが入ると心から安堵感が広がります。そして、どのような方が希望してくださったのかがとても気になります。想定と現実の差があるのかを知るためです。今回は、20前後の社会人で、想定通りのお客様でした。

 

一定期間で複数の申し込みが入れば、もう安心です。不動産の募集にも負のスパイラル、正のスパイラルがありますが、順調に成約していく事で、正のスパイラル効果が働き、より入居促進が活性化されていきます。

インターネット広告を見て入居を検討している方は、物件広告を何度も何度もご覧になります。あるいは、動きがあると通知が届くようなサービスもあります。そこで、部屋が埋まっていくのを見ると、早く部屋を抑えなければならないという焦る気持ちが生まれるからです。

 

 

 

満室化達成

 

最終的に幸運も重なり、想定よりも短期間で満室化を果たす事ができました。

同じ間取りながら変化をつけたリフォームを行ったことが社宅を探していた企業の目に留まり、まとめて部屋を借りていただく事ができました。そして、他の部屋が空き次第、全て借りたいと嬉しいご要望までいただくことができました。

 

草川さんにも大変感謝いただく事ができ、とても思い出深いコンサルティングとなりました。

「建て替え計画を断念せざるを得なくなった時には、目の前が真っ暗になりました。悪い想像もたくさんしてしまい、気持ちも大分落ち込みました。しかし現在は全く違います。満室となった状況での投資金額と収入金額から、もう一度この物件の購入について考え直してみたのです。自社ビルはあきらめなければならなかったですが、はじめから収益物件に投資したのだと考えてみれば、とても良い収益を生み出している事に気が付きました。本当にありがとうございました。」

 

 

 

本当の再生へ

 

満室になったからと手綱を緩める事はできません。収入が確保できたことで、ここからが本当の賃貸経営のスタートです。建物の老朽化は待ったなしの状況です。その上で、全室にお客様が住まわれている状態となりました。安心、安全に長く住んでいただける環境を構築していかなければ、あっという間に負のスパイラルに突入してしまうのが賃貸経営の怖さです。

 

 

 

今回のポイント

 

・収益物件に投資をする場合、収入と支出のバランスが取れているかが大事です。

 

・家賃収入を得る権利には、建物や設備を維持管理する義務が伴います。

 

・築年数が経過した物件では、部屋ごとの状況が把握できない場合が多いです。詳細に状況をリスト化して、効率的な投資や判断を行いましょう。

 

・その物件が属する賃貸市場の需要と供給のバランスを常に意識しましょう。

 

・賃貸住宅は満室化してからが、腕の見せ所です。安心安全に長く住んでいただける物件を目指しましょう。

 

 

 

最後に

 

今回のコンサルティングは、空室対策で必要となる多くの要素を兼ね備えた事例であったと思います。

物件を所有する方は、高額な投資を行っており、今回のようなケース、相続など様々な事情があります。しかしながら、そのような事情は、借りる方が部屋を探す際には少しの意味も持たないのです。

つまり、どのような事情があっても、借りるお客様が良いと判断されない物件、そして計画は成り立ちません。

エリア、物件規模、築年数、建物の構造、間取など物件の個性は千差万別でマニュアル化はできません。そこに住まわれる入居者に寄り添った計画を立てる必要があるのです。

 

不動産への投資は高額であり、多額の税金や諸費用もかかる事から、簡単にやり直しはききません。また大きな財産にかかわる事なので誰にでも相談できるものではないと思います。もし不動産経営でお困りになる事がありましたら、お気軽にご相談ください。

 

あなただけではありません。不動産経営は誰もが不安や孤独に陥りがちです。入居者の方々の幸せと満足を構築しながら、安定した賃貸経営を私たちと一緒に築いていきましょう。